◎まえがき
なぜ「理想の図書館」なのか ――― ピエール・ボンサンヌ
「20あまりの文字記号のありうる組み合せすべて(かなり膨大な数字にわたるが、無隈ではない)、要するにあらゆる言語において表現しうるすべてのものが収まる巨大な図書館。といえば、ここにはホルヘ・ルイス・ボルヘス ― 文学におけるコスモポリタソ的傾向を代表する盲目のスフィソクス ― の短編「バベルの図書館」のテーマがおそらく浮かび上がることにたるだろう。秘教的色彩をおびていて、目のくらむような体験をもたらすこの短編は、すでにわれわれの本の神話学に属している。だがそれとともに、とかく忘れがちだが言っておかねばたらないのは、同じくボルヘスが、彼の得意とするシソメトリーの法則にしたがい、もうひとつ別の短編「鏡と仮面」を書いていることである。これは、ただ1語だけで詩全体を包含するようた特別の語を追い求める詩人の物語である。作者の言によれぼ、「これはまさに『バベルの図書館』の対極をなす。無限の書物ではたくして、ただ1語、無限の語があるのみたのだ。」